インタビュー
アーケードスティックの新星,RazerのXbox 360用アーケードスティックはいかにして生まれ,どこを目指すのか。Razerの担当者に聞いてみた
天面の開閉機構によって確保された高メンテナンス性や,Razer独自のアプローチが随所に盛り込まれた製品ということで,発表から1年経ってなお国内外の格闘ゲーマー達から熱い注目を浴びる新製品である。
今回4Gamerは,東京ゲームショウ2012の会場にて,Razerのシンガポール支社である,アジア太平洋地域を統括するRazer Asia-Pacificでプロダクトマーケティングスペシャリスト Alvin Chua氏にインタビューを行い,Razerスティックの魅力について,あらためて解説してもらった。プロゲーマーについてのRazerの見解など,現在の格闘ゲームシーンについても合わせて聞いているので,Razerスティックが気になる人はもちろん「Team Razerに入りたい!」という人も,ぜひチェックしてほしい。
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Razer製アーケードスティック公式告知ページ
現在進行形で開発が進むRazerスティック,そのポイントは
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず始めに,AlvinさんがRazerでどのような業務を担当しているのかをお聞かせ下さい。
私の部署では,とくにアジア圏を拠点とし,世界市場に向けたコンソールの周辺機器,オーディオデバイス製品のマーケティング,および製品開発を行っています。たとえば「Razer Onza Tournament Edition」や,今回出展したアーケードスティックなどがそれに当たります。
4Gamer:
ではそのRazerスティックについて,さっそくお聞きしたいと思います。そもそも,Razerがアーケードスティックを開発しようと考えた経緯からお話しいただけますでしょうか。
Alvin氏:
はい。まず最初にあったのは,ユーザーから強い要望なんです。そこでRazerのコンセプトである「For Gamers. By Gamers」に則ったデバイスを,アーケードスティックのジャンルでも実現したい,というのが1つ。それから日本には,アーケードスティックありきの強力な格闘ゲームコミュニティがあるので,需要についても十分なものが見込めるだろう,というのが1つ。この2つが主な出発点になっています。
4Gamer:
最初から日本市場を視野に入れた製品だと。でも日本以外での展開も,もちろん考えてらっしゃいますよね?
Alvin氏:
そうですね。この製品はグローバルでリリースするつもりで,日本の次に大きなコミュニティを持つ北米市場でも力を入れていきたいと考えています。ただ,最も重視しているのは日本です。
4Gamer:
なるほど。初お披露目が昨年の東京ゲームショウ2011だったことからも(関連記事),日本市場を重視していることはうかがえますね。
では肝心の製品について教えてください。Razerアーケードスティックの最大の特徴といえば,ボタン1つで開閉可能な天面の機構ですが,この機能はどのようにして生まれたのでしょうか。
Alvin氏:
他社のアーケードスティックを見たときに,我々がまず感じたのが,メンテナンスや改造が本当に大変だなということです。すべてのネジを取り外さなくてはならず,手間がかかりますからね。そこで「天面が開けやすく,改造のしやすいアーケードスティックを」というのが,Razerスティックを開発するうえでの,最初のコンセプトになりました。
4Gamer:
昨年のバージョンからは,どのあたりが変わったのでしょうか。
Alvin氏:
この1年は,βテスターからのフィードバックを受け,実に13回のバージョンアップを行ってきました。昨年の東京ゲームショウ2011からの違いということであれば,まず分かりやすいのは天面にアクリルシートを採用したことですね。昨年のバージョンではメタルブラックの天板でしたが,ここにアクリルシートを被せたことで,下のシートを変更するだけで,デザインを自由にカスタマイズできるようになりました。
4Gamer:
ああ,これなら,シートさえ自作すれば簡単にデザインを変更できますね。できれば型紙も配布されると嬉しいのですが……。
Alvin氏:
ええ,もちろん型紙も配布する予定です。あと,今回の出展バージョンは,ボタン表記がアクリル板に印刷されていますが,製品版ではこれもシート側へ移すつもりです。
それから内部についてですが,メンテナンス用の工具として小型のドライバーを収納してあるのは昨年から変えていませんが,もう1つ,いわゆる標準のレバーの握りと置き換えられる「ナスレバー」タイプの握りを追加してあるんです。
4Gamer:
とくに海外のユーザーには大きなポイントですね。日本向けと言う意味では,需要は高くないかもしれませんが。
そういう人のために,3つめの変更点があります。昨年のバージョンとは,実はこれがもっとも大きな違いになるのですが,筐体内部の底面に,ハニカム状のネジ穴を敷き詰めたプラシートを設定しました。これによりユーザーは,内部の収納ボックスを自分の好きな位置へ配置できるようになっています。もしナスレバーが不要なら,その収納スペースごと取り外すことも可能です。
4Gamer:
換えのボタンやケーブルなどを入れられる収納ボックスは,昨年のバージョンもありましたが,この有無まで自由にカスタマイズできるようになったと。
Alvin氏:
はい。以前の収納ボックスは筐体に固定されていましたが,現在のものはハニカム状のプラシートにネジで固定されているだけなんです。配置を変更することも自由ですし,取り外すことだってできますよ。
4Gamer:
以前のバージョンより,若干筐体の厚みが増している点が気になっていたのですが,その理由はこの機構の追加にあったわけですね。
Alvin氏:
はい。ただ厚みとしては平均的ですし,安定したプレイが可能な高さだと思っています。
4Gamer:
他社のアーケードスティックと比べると,確かに標準的ですね。
ちなみに,先ほど13回のバージョンアップを経ているとのお話がありましたが,その間にはどのような試みがあったのでしょうか。
Alvin氏:
これまで紹介した部分が主ですが,ボツになったものを含めると,ボタンのレイアウトには苦労しましたね。革新的な製品にしたいという思いから,さまざまなレイアウトを試してみたのですが,結局はクラシックなものに落ち着きました。
4Gamer:
現在のボタンレイアウトは,いわゆるVIEWLIX配置※のようですね。
※タイトーの汎用アーケード筐体,VIEWLIXシリーズで採用されているボタン配置。
Alvin氏:
そのままではないですが,非常に近いレイアウトにはなっていると思います。
4Gamer:
いくつか質問があるのですが,まずRazerスティックでは,Xbox 360と接続するUSBケーブルが着脱可能になっていますよね。可搬性という意味では優れていますが,プレイ中に外れてしまう危険はないのでしょうか。
Alvin氏:
その心配はないと思います。Razer内部でも当初そのような声があったので,コネクタの部分はしっかり作り込んであるんですよ。β版のテスターからも,今のところ不満は上がってきていませんので,問題ないはずです。
ただ,筐体を膝の上に置いてプレイする人は多いと思うので,コードを含めたプレイ時の安定性については,より注意して開発していきたいですね。
着脱可能なXbox 360との接続ケーブル。筐体側のコネクタはかなり固めに作られている |
マウスパッドのようなラバー素材で覆われた底面。膝置き時にも安定しやすい |
4Gamer:
配線周りでは,[BACK]ボタンと[START]ボタンの内部配線が,ほかと比べて短いのが気になりました。今回の出展バージョンで試してみましたが,天面を開いている状態では,[BACK]ボタンの配線が,[B]ボタンの端子に届かなかったんですね。もう少し配線を伸ばしてもらえると,ボタン配線を変更する改造がやりやすいと思うのですが。
Alvin氏:
ぜひ検討したいと思います。ご存じのとおり,今回の出展バージョンはまだβ版です。まだ製品に反映されていないフィードバックも数多くありますので,製品版ではさらに使いやすくなるようにしたいと思います。
4Gamer:
ありがとうございます。もう1つ,Playstation 3版の発売は予定されていないのでしょうか。β版のコミュニティサイトでは,無理矢理PlayStation 3版に改造している方もいるようですが……。
Alvin氏:
ライセンスに関わる問題なので,今は何とも言えませんね。しかし近い将来,リリースしたいとは思っていますよ。
4Gamer:
期待しています。日本ではおそらくPlayStation 3版の需要が高いはずですので。また世界最大のトーナメントであるEvolutionも,現在はPlayStation 3版がベースになっていますので,ぜひよろしくお願いします。
アーケードスティックにおいて,Razerが目指すもの
4Gamer:
さて,今回のβ版についてはこのくらいにして,ここからはもう少し大局的なお話,とくに,アーケードステックにおいてRazerが目指す方向について聞かせてください。
まずアーケードスティックという製品は,これまで日本のアーケード環境を再現する方向で進化してきた側面があります。「アーケードと同じパーツを使い,アーケードの操作性を可能な限り再現する」というものですね。Razerの目指すものも,この延長線上にあると考えていいのでしょうか。
これまでの多くの製品がそうであるように,Razerスティックも三和電子製のボタンとレバーを使っています。そういう意味では,延長線上と言えるかもしれません。
4Gamer:
実はこの質問は,昨年の東京ゲームショウ2011の折,Robert “Razerguy” Krakoff氏にもお聞きしているんです(関連記事)。そのときは「日本のアーケードゲームの操作性を再現する方向に進むつもり」とお答えいただいたのですが,この1年でアーケードスティックにはさまざまな製品が登場しましたので,あらためて今の考えをお聞きしたいと。
Alvin氏:
うーん,アーケードの再現というよりは,格闘ゲームコミュニティの要望に応えるものを,というのがより適切かと思います。そのため携帯性はとくに重視していますし,もちろんそれはトーナメントシーンを意識してのものです。
4Gamer:
ちょっと意地悪な質問かもしれませんが,その考えはMad Catzが目指す方向と同じに聞こえます。この認識は正しいですか?
Alvin氏:
そうですね。ただMad CatzさんにはMad Catzさんのファンがいますし,私達には私達のファンがいます。Mad Catzさんと直接対決するというよりは,私達のファンの期待に応えたい,という気持ちが強いです。
4Gamer:
トーナメントシーンという文脈では,2012年にはRazer初の格闘ゲームプロゲーマーとして,ふ〜どさんと板橋ザンギエフさんが新たにTeam Razerに加わることになりましたね。そこでRazerの考えるプロゲーマーのあり方についてもお聞きしたいところです。FPSやRTSなど,さまざまなジャンルでプロゲーマーをサポートしているRazerですが,格闘ゲームにおいても,プロゲーマーのサポートは今後も続いていくのでしょうか。
Alvin氏:
プロゲーマーの契約に関してはグローバルなプランですので,もちろん今後も続けていきますし,世界的な展開も考えています。
4Gamer:
では4Gamerの読者で,Team Razerに入りたいという人がいたとすれば,実現の可能性はあるわけですね。
Alvin氏:
はい。Razerにはe-Sports部門がありますので,実力を証明できるような経歴や実績を送っていただければ検討させていただきます。どこに才能が眠っているか分かりませんから,募集は常にオープンですよ。
4Gamer:
なるほど。ではRazerがプロゲーマーに求めるものとはなんでしょうか。やっぱり強さですか?
Alvin氏:
もちろん勝つことは重要ですが,いかにRazerのイメージを正しく伝えてくれるか,という人間性や行動力を重要視しています。この人を応援したいな,というファンが付くことが大切ですね。
4Gamer:
ふ〜どさんや板橋ザンギエフさんは,そのイメージに合致したわけですね。
Alvin氏:
まったくそのとおりです。
※再掲
4Gamer:
格闘ゲームにおけるTeam Razerの活躍に期待したいと思います。最後に,Razerスティックの話題に戻るのですが,製品版の発売日は決定しているのですか?
Alvin氏:
正確なスケジュールは決まっていませんが,2013年の初春を目標にしています。ただ,今現在もさまざまなフィードバックをいただている最中で,それに従い,現在もさまざまな改良に取り組んでいるところです。ここまで来たら,我々としても納得できるものに仕上げたうえで発売したい。なので,あくまで予定とさせてください。
4Gamer:
……まさか,来年の東京ゲームショウ2013で最終βをやる,なんてことにはなりませんよね?
Alvin氏:
それはありません。安心してください(笑)。多くの方が待ち望んでいることは理解していますし,現在はもう仕上げの段階なので,ぜひもうしばらくお待ちいただければと。
4Gamer:
Evolution 2013で,Razerスティックを携えて決勝に臨む,ふ〜どさんや板橋ザンギエフさんが見られることを期待します。
Alvin氏:
彼らの期待にも応えられる製品にするよう,頑張ります。
4Gamer:
はい。本日はありがとうございました。
トーナメントコミュニティの隆盛にけん引され,急激な進化を遂げてきたアーケードスティック市場に,高いカスタマイズ性という武器を手に乗り込んできたRazer。Alvin氏が「真の意味で素材として使えるアーケードスティック」と語るRazerスティックは,トーナメントコミュニティのユーザーにとっては,非常に実戦的なデバイスとなりえるだろう。
Mad CatzやHORIといった既存のブランドに対し,Razerがどこまで食い込めるのか。ひとまずは,2013年春の発売を,楽しみにしておこう。
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