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印刷2007/12/12 12:01

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ゲーマーのための読書案内
心に抱く世界観を形にする 第25回:『「世界地図」の誕生』→ゲームにおけるマップ全般

 

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『「世界地図」の誕生』
著者:応地利明
版元:日本経済新聞出版社
発行:2007年1月
価格:2520円(税込)
ISBN:978-4532165833

 

 コンピュータゲームが単純なアクション要素だけの状態から分化していき,やがてプレイフィールドの構成や性質,あるいはそれを選ぶ順番やルートがプレイ要素になったところから,ゲームには「マップ」が付き物になった。いまや我々が原稿を書くときにもついつい,プレイフィールド全体のことをマップと呼んでしまったりするほどだ。
 そんな,ゲームの歴史にまつわる抽象論から入りつつ,今回紹介するのは『「世界地図」の誕生』。こちらは本物の世界地図,つまり地球全体の姿を示す地図が,どうやって出来上がったのかを,実例に基づいて考えていく本である。

 著者の考えによれば,踏査と実測による世界地図が一応の完成を見たのは,1501年にポルトガルで原型が成立し,その写しがイタリアに伝来する「カンティーノ図」であるという。当事国といい,時代背景といい,これが大航海時代のなせる業であることは,説明するまでもないだろう。
 いわばその過程をなぞるゲームが,かつてアートディンクが制作した「アトラス」だった。既知のヨーロッパ世界と地中海沿岸は常に同じ形だが,それ以外の地域についてはプレイするたびに生成され,当時流行のフラクタル理論を応用して海岸線が造られるという,卓抜したアイデアが印象的なゲームだった。続編の「ネオアトラス」ではさらに,地球球体説を信じないという選択肢すら用意されており,これを選ぶと以降ゲーム内で,船が世界の果てから滝に落ちてしまいかねないというアイデアも,たいしたものである。

 ともあれこうした話は,探検家が実際に世界各地を訪れることが可能な時代になってからのものだ。未踏の地域を含む世界全体の姿については,伝聞や想像に頼るしかない時代が長かったのである。この本で面白いのは,そうした時代に各文明/文化圏で作られた「世界地図」の特徴を,概観できる点にある。
 例えば,話の導入部として引き合いに出される日本地図,1370年の「鹿児島県坊津・資隆寺蔵日本図」において,日本列島は仏教/ヒンズー教の法具「独鈷杵」(とっこしょ)の形をしていると考えられており,その認識に基づいて各国をその枠内に収めている。
 確たる観測事実がないとき,人はそのコスモロジー(宇宙観)に基づいて世界全体の姿を想像し,それと整合するように経験上の知識を当てはめていく。中央に五畿内があり,列島の東西にそれぞれ,東国8か国や西国9か国が割り当てられているが,個々の正確な形はほとんど顧慮されていない。そして列島の東西端はどちらも,まるで独鈷杵の両端のように尖っているのである。

 同様のアイデアで,紀元前6世紀バビロニアの地図において世界は円盤状で,周囲を海,その外側を各種天体が取り巻いているとか,1364年に書写された「法隆寺蔵五天竺図」で,仏教的価値観に基づきつつ,インドが中国より大きくなっているとか,中世ヨーロッパの地図は,世界全体を円形に描きつつ,その東半分をアジア,西半分をさらに等分して北をヨーロッパ,南をアフリカとして描き,アジアのさらに東に「エデンの園」を置いたり(この構図のバリエーションを,アルファベット「O」を「T」字で区切る形から,TOマップと呼ぶ)とか,中国では華夷秩序を絡めつつ自国を四角く描き,東西南北に蛮族を配するとかいった,観念に基づく世界描写の例が列挙される。
 先ほども述べたとおり,観測事実に基づかないだけに,こうした大航海時代以前の地図は,各文明/文化圏の人々の,ものの考え方をある意味ストレートに伝えてくれる。いわば彼らの頭の中だけの,あるべき世界の姿が分かるわけで,非常に興味深い。

 そこから敷衍して考えれば,それは一種,RPGにおけるマップ設計に近いものともいえる。ドラマティックな展開を演出するために,つまりはご都合主義も積極的に肯定する考え方で,プレイヤーキャラクターを中心とした同心円状のモンスター配置や,高層ダンジョンとその周辺地域など,いわばあるべきものがあるべきところに設定される。結果として,地割りの点から見ると非常にスタティック(静的)な世界が設計されるわけだ。もちろん,オンラインRPGのアップデートで,それが随時見直されることもあるけれど。

 そんな“脳内”世界地図の実例が,図版ともども豊富に収録されているのが,本書の面白さだ。文字でなく,描かれた図や記号を相手にしているだけに,いささか恣意的な解釈ではないかと思われるか所もあるが,個々の地図に込められた主題や構図に関する示唆の数々は,実に興味深い。歴史を知るためだけでなく,各種ファンタジーの,そのまた基層を知るためにも役立ちそうな本である。

 

「セカイ」地図と書くとすぐ滅びそう……

愛を叫ぶには,中心を探さないとね。

 

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■■Guevarista(4Gamer編集部)■■
無駄な読書の量ではおそらく編集部でも最高レベルの4Gamerスタッフ。どう見てもゲームと絡みそうにない理屈っぽい本を読む一方で,文学作品には疎いため,この記事で手がけるジャンルは,ルポルタージュやドキュメントなど,もっぱら現実社会のあり方に根ざした書籍となりそうである。
  • 関連タイトル:

    ネオ アトラスII 〜Voyage to PC Evolution〜

  • 関連タイトル:

    ネオアトラス

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