インタビュー
あのとき君は,どうして「Player Kill」ばっかりしていたの?――ドワンゴ川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第5回
「面白い」から「はやる」とは限らない
川上氏:
今の話をまとめると,要はゲームの成功においては,面白さの質だったり,ゲーム性みたいな部分というのは,あんまり関係ないってことになるよね。
4Gamer:
まぁ……そうですね。
佐野氏:
悲しいけど,それが事実だと思います。
そうなんだよなぁ……。いや,僕は昔から,ボードゲームが大好きなんですけど,そのボードゲームがコンピュータゲームに駆逐されていく過程を寂しく見守ってきた人間でもあるんだよね。で,ボードゲームの何が面白いかっていったら,やっぱり人間同士で一緒にプレイするってところなんです。
4Gamer:
そうですね。
川上氏:
でも,人間同士その場で一緒にやるボードゲームの方がどう考えたって面白いにも関わらず,世の中は,頭の悪いAI(コンピュータ)と遊ぶ方を選んでいったわけじゃないですか。それが当時,どうしても納得できなくて(笑)。
佐野氏:
あー,分かります。
川上氏:
だから,その時代から「面白さ」っていうのは,それほどの決定打にはなっていなかったんだよね。
4Gamer:
まぁその辺は,今のソーシャルゲームでも繰り返されている現象だと思うんですよ。客観的なゲームの質自体は,どう見ても既存のコンシューマゲームの方が豪華で面白いんですけど,結局,お客さんのライフスタイルだったりシンプルな欲求だったりに“より近い方”が有利だっていう。
川上氏:
他のみんなが遊んでいるかどうか,みたいな部分もそうですよね。
中野氏:
「EverQuest」でも,一番面白い遊び方っていうのは,毎日同じ時間に集まれる,50〜60人でチームを作って遊ぶことなんですよね。でも,こんな遊び方ってどう考えたって難しいし,現実世界じゃ続かない。だから,ヒマな学生だとかニートだとか,そういう人達以外じゃ遊びようがないし,そういう人達の中ですら,続けていくにつれて脱落者が増えていくんですよ。
4Gamer:
たぶん,動画サイトとかが広がっていく過程もそれに近かったんだと思うんですよね。もう7〜8年くらい前になりますけど,日本でもインターネットの高速回線が整備されていく過程で,当然のように動画コンテンツが注目されて。最初は,各社が映画だったりテレビだったりのコンテンツを持ってくるという動きになったじゃないですか。
川上氏:
はいはい。
4Gamer:
でも,結局ネット上で“人気を集めた動画”って,30分とか2時間とかいうアニメや映画みたいなものではなくて,1分とか5分とかの細切れのヒマつぶし動画だったという。その集合体である動画サイトが覇権を握ったわけですよね。
川上氏:
ニコニコ動画だって,映画コンテンツやテレビのコンテンツにはあまり依存してないですからね。
佐野氏:
ゲームもそうですけど,遊ぶ時に気合いが必要じゃないですか。僕はそういうゲームが好きなんですけど,ケータイ開いて画面も見ずにポチっと押すだけで進むゲームがはやることについては道理だと思うんです。だって楽ですもん。
川上氏:
簡単に進む/やれるってことがいかに重要かって話だよね。その点でいうと,最近のニコニコ動画って難しすぎると思うんだけど……。いや,最初からハードル高いけどさ。
佐野氏:
アカウントを作らなきゃいけない時点でダメな気がしますよね。
中野氏:
実際,40代〜50代の方が「ニコニコで見たい番組がある」という時に,自分の子供にアカウントを取ってもらうみたいな話を結構よく聞くんです。
川上氏:
聞くよね。自分でやるのは大変なんだろうね。
4Gamer:
なんだかんだ言って,テレビとかの簡単さに比べると,インターネットのサービスって圧倒的に難しいんですよね。
佐野氏:
リモコンでテレビを付けて,1チャンネルにすればニュースが見られる。これくらいじゃないと,本当のマスには普及しないんじゃないですか。
そういえば,今ってスマートフォンが凄い売れているけど,自分で設定とかGmailのアカウントとかを作れなくて,お店で店員さんにやってもらう人が多いって話も聞きますね。
佐野氏:
開発者的に言えば,ヘルプやウィザードがあるから,その流れに沿って進めば余裕ですよ!ってことなんだろうけど,一般のお客さんには,それでも難しそうかなって思えるんでしょうね。で,一度でもそういう印象を与えちゃうと,頑張ってなんとかしようって動いてくれる人がかなり減る。
中野氏:
店員さんに任せるっていうのは,泥臭いやり方だけど,無理やりそのハードルをよじ登らせちゃってる例だよね。
川上氏:
でも他の例でいうと,例えば,新しい家電製品を買っても,やっぱり使い方を調べる気にはならないじゃない。
佐野氏:
それは確かに。
川上氏:
僕だって洗濯機は,「洗濯」と「洗濯+乾燥」と「乾燥」の3つのボタンの使い方しか覚えてないっていうね。
佐野氏:
でもきっと,ボタンは他にもたくさん付いているんですよね。
4Gamer:
あー,ウチのは10個以上ボタンがありますね。でも,僕も「簡単スタート」みたいなボタンを押すだけですよ。
川上氏:
だからさ。僕らみたいに「PCはバリバリに使えるぜ」って奴らでも,1歩自分達のフィールドの外に出ると,本当にバカな人間になるんですよ。
佐野氏:
それは,調べなくてもとりあえずは洗濯できているから,その現状で満足ってことですよね。別に他のボタンがなんなのかとか,どうでもいいっていう。
川上氏:
そうそう。なんでこういう話をしたかというと,ウチの母親ってパソコンとかは全然苦手で,設定とかは全部僕がやってあげているんですよ。で,最近,そんな母親に新しい洗濯機を買ってあげたんです。最新式の高機能な奴を。
佐野氏:
親孝行ですね。
川上氏:
で,様子を見てると,そんな機械音痴な母親が,こと洗濯機に関しては,クリーニングボタンがどうだの,この場合は同時に乾燥させない方がいいだの,凄い細かいこと言いながら,かなり使いこなせちゃってるんだよね。つまり例え機械であっても,洗濯機に関しては,僕よりも母親の方がすごいっていうことなんだよ。
佐野氏:
それはやっぱり、お母さんが洗濯機に興味があるから,いろいろ調べているんでしょうね。
川上氏:
そう。要するにこれは「そういう問題」なんだよね。
佐野氏:
興味がない人に伝えようと思ったら,調べる努力が要らない仕組みじゃないと難しいってことですよね。
川上氏:
炊飯器だって,お米を入れて水をあわせるところまでは分かるんだけど,後はよく分からないしなぁ。
中野氏:
まとめると,ソーシャルゲームも洗濯機や炊飯器みたいなものってことですよ。
4Gamer:
ゲームを遊ぶことも,本来はそういうもの(カセット入れて電源を付けるだけ)の一つだったはずなんですけどねぇ……。
川上さんってどんな人? 中野氏の証言:
川上さんとは,一緒に夜な夜なオンラインゲームを遊んでいた仲間の一人で,ゲーム友達みたいな間柄でした。で,なんか「大会でもやろう」って話になって,呼び出されてノコノコと出て行ったのが最初の出会いです。
僕は当初,プログラマーとして雇われたんですが,入社した当時はプログラムなんてほとんど知りませんでした。コンパイルの仕方も分からなかったくらい。ただ,教材としてアメリカで開発していた対戦サーバーのソースコードがあったので,2か月くらいそれをいじって遊んでいたんです。そうこうしてたら,「中野君,この仕事よろしく」と言って振られてきたのが,後の「セガラリー2」の通信サーバー構築に繋がる仕事でした。なぜ僕にこの仕事をやらせようと思ったのか,いまだに理解できません。そもそも僕だったら,絶対に自分を雇ってないし。
ただ,会社自体はとても楽しかったんです。毎日新しい知識に出会えたし,一緒にご飯食べに行ったり,夜はみんなでゲームをしたり。仲間意識は強かったと思いますよ。だから,会社に何時間いてもまったく苦ではありませんでした。
川上さんから仕事の指示ですか? ほとんどありませんでしたね。というか,川上さんが仕事をしている姿は,僕らから見かけることはほとんどなかった気がします。それでも,話していると端々に“凄さ”というのかな。そういうものは感じるんです。でも,凄いロジカルかと思えば感情豊かな面もあって。僕から言うのも変な話ですけど,見ていてとても面白い人ですよね。
あと,これは個人的な見解ですけど,スタジオジブリの鈴木さんと知り合ってからは,怒り方とか指示の仕方が変わったような気がします。なにがどうして悪いのかを具体的に説明してくれるようになった。……育ててくれようとしているんでしょうか?
ゲームがうまい奴は頭がいいのか
4Gamer:
えーと,すいません。結局,今日はなんの話をするんでしたっけ。
川上氏:
ああ,そうだ。ゲーマーが社会的に活躍できるのか,って話をしたかったんだった。
佐野氏:
ただの懐古厨話にしかならない展開でしたよ。
4Gamer:
ちなみに,川上さんが凄いと思っていたゲーマーが,今日ここにいる佐野さんってことなんですよね? 一つのモデルケースというか。
川上氏:
そうですね。初めて会った時は,まだ彼は高校生くらいだったんだけど,「こいつは頭がいいな!」と思って。だから,後で会社にも入ってもらったし,いろいろ期待もしていたんだけど。
4Gamer:
「頭がいい」と判断したのは,どこでなんですか?
川上氏:
会話だったり,やりとりですよね。そういうところから頭の回転の速さみたいなものは見えるじゃないですか。
佐野氏:
ありがとうございます!
川上氏:
でもね,使い方を間違ったというか。全然駄目だったよね。
佐野氏:
なんででしょうね。純粋に仕事の仕方が分からなかったというのはありましたが。
川上氏:
やる気もなかったじゃん。
佐野氏:
仕事の仕方が分からないから,やる気もでないという悪循環ですよ!
川上氏:
まぁだから以前はクビになって。最近,また出戻りでドワンゴに復帰してもらったわけですけど,やっぱり頭がいいなって印象は変わらないんです。だけど,才能を無駄に使ってるなこいつって印象もやはり変わらない(笑)。
佐野氏:
それが僕なんですから,仕方ないじゃないですか。
川上氏:
そういえば佐野君って,ゲーマーとしてはどのくらいのレベルなの? クラスというか。
佐野氏:
世界レベルですよ。僕,神ですから。
川上氏:
え,世界レベルってなに?(笑)
佐野氏:
いや,本当にいろんなゲームで,僕は世界レベルの実績を残していますから!
※戦略ゲームや対人ゲームを得意としており,「World of Warcraft」では殿堂入り(日本人でほぼ唯一?)を果たしている
中野氏:
まぁ,それは事実なんですよね。
4Gamer:
僕もいろいろなゲーマーの方を知っていますけど,なかでも佐野さんは“センスが凄い人”だと思っていました。
佐野氏:
ほらほら。
川上氏:
でも,設立当初のドワンゴに在籍していた佐野君以外のゲーマー社員達だって,ゲーマーとしてはかなり名の知れた奴らばかりだったよね。当時は,むしろ佐野君よりも有名なのが何人かいたよね。
KAF(※)とかNaGaNo(※)のことですか? いや,奴らはゲーマーとしては駄目なやつらですよ。向上心がないですから。しょせん国内レベルのプレイヤーで,真の世界レベル――世界という舞台で実績を残せていた――のは僕だけだったというのを強調しておきたい!
※KAF:「Ultima Online」では,極悪非道的な意味でかなりの有名プレイヤーだった。黎明期のドワンゴでプログラマーを務めた。ちなみに佐野氏は“駄目なプレイヤー”と言っているが,実際のゲームの腕前は一級品である
※NaGaNo:主にQuakeなどで名を馳せたプレイヤー。やはりプログラマーとしてドワンゴに雇われた。ゲームの腕前も確かだった
川上氏:
まぁ,揃いも揃ってみんなゲームばっかりやって,なかなか仕事してくれなかったよねえ(笑)。
佐野氏:
KAFの野郎なんかは,Windowsのデスクトップに「UO.exe」を「Word.exe」に書き換えたショートカットを置いたり,姑息な偽装工作していましたよ。みんなが帰った頃にさっと起動して,ずっと会社でゲームを遊んでいた。だから,あいつ全然家に帰ってなかったんです。
川上氏:
当時のドワンゴって,森さん(※)が連れてきたスーパーハッカー集団と,僕が連れてきたスーパーゲーマー集団の集まりだったわけだけど,開発チームとしての実力差は本当に大きかったよね。まさに両極端だった。
※森 栄樹:ハンドルネームはalty(アルティ)。Bio_100%の代表で,プログラマーとして活躍。MicrosoftでDirect Xの開発に関わったのち,ドワンゴに合流した。ドワンゴの開発部長を経て,現在は独立。
中野氏:
いやぁ,不思議ですよねぇ。セガの仕事(セガラリー2の通信サーバー構築)をちゃんと完成できたのは,本当に奇蹟だったと思います。森さんからも,「中野君たちのような人間がセガラリーの仕事をなぜ成功できたのか……というよりも,むしろ,なぜ失敗しなかったのか,まったく理解できない」って言われましたから。
川上氏:
まぁ僕も,着メロ事業やニコニコ動画とか,これまでにいろんなプロジェクトを手がけてきたけど,今振り返ると,ゲーマー社員を使ってセガの下請け仕事をやり遂げることがダントツに難度が高かったね(苦笑)。
4Gamer:
やっぱり,ゲーマーに秘められた才能があったからうまくいった……のでしょうか?
中野氏:
まぁその意味で言うと,佐野君は適応力というか,興味があることに対する情報収集能力がもの凄いよね。おかげで同じクランとかにいると,そのクラン自体もトップチームになるし。
4Gamer:
ああ,それは分かります。彼の作ったマニュアルや攻略法が的確なんですよね。
川上氏:
なるほど。じゃあ話を戻すけど,「ゲームが上手い(強い)奴は頭がいいのか」というテーマに対して,世界クラスの佐野さん的にはどう思うの?
佐野氏:
うーん,それは正直なところ,ほとんどのゲーマーは,一般の人に劣ると思っています。中には「こいつは!」っていう天才みたいな人も見かけますけど,そういう人の方がごく一部で。まぁ……。
川上氏:
正直な意見をありがとう。でも,そうなんだよね。そもそもこの連載って,「ゲームをやってる奴には,凄い才能が溢れてる」「ゲームはいろんな能力が鍛えられる」みたいなメッセージを込めているんだけど,一方で,ほとんどのゲーマーがそうでもないんだよなというのは正直なところで。
4Gamer:
やっぱりゲームばっかりやっていると,社会生活には支障をきたすんですかね?
川上氏:
それでも,実際にゲーマーの中にもめちゃくちゃ優秀な人がいるのは確かなんです。だから,優秀なゲーマーとそうじゃないゲーマーの差ってなんだろうなと考えていて。
4Gamer:
ああ,そういう意味でいうなら,シングルプレイのゲームをやり込むタイプのゲーマーと,対人戦のゲームをやり込むゲーマーって,全然性質が違うとは思うんですけど,そういう部分だったりするんですかね。
佐野氏:
そこは確かに,全然タイプが違いますよね。対人戦が強いタイプのゲーマーは,いかに相手を出し抜くか,みたいな部分を日々考えていますから。シングルプレイのゲームをやり込む人は,ひたすら効率重視みたいな。
川上氏:
どうなんだろうね。まぁでも,対戦ゲーム云々は置くとしても,ドワンゴ設立当時のオンラインゲーム界隈って,凄く独特の雰囲気がありましたよね。今のプレイヤーとは明らかに異質な何かがあったような気がする(笑)。
中野氏:
まぁ,あの時期にゲームのためにわざわざパソコンを買って,安くない回線を自宅に引いて,それでいて海外のゲームを遊ぼうって人達の集まりですから。その時点ですでに普通じゃないですけど。
佐野氏:
それに当時のゲームって,基本的には自分で調べて遊ぶしかなかった。手軽に何かを調べてどうこうできるっていう環境は無かったから。その意味で,例えばWikiを見まくって一つのアイテムも逃さないのが“凄いゲーマー”かといったら,やっぱりそれは違うと思いますし。結局は,自分で考えながらゲームをしているかどうかじゃないですか。
川上さんってどんな人? 佐野氏の証言:
誤解を恐れずに極端な表現で例えると,「大人だったり子供だったりする人」ですよね。「やっちゃおやっちゃお」が子供モードで,「そんなの絶対おかしいよ」って言う時がだいたい大人モード(笑)。川上さんをあまり知らない人からは,これが“気まぐれ”に見えちゃうのか,怖がったり理不尽に感じたりする人もいるみたいですけどね。
ただ普通,それなりに社会経験を積んでいると,何事も否定材料から考えちゃうじゃないですか。でも川上さんが子供モードの時は,とにかく夢の部分がどんどん膨らんでいくんですよね。そして,いい絵が浮かんだら即実行みたいなところもあって。「思い立ったが吉日」を地で行く人なんです。
あと,これはもう僕の10年来の謎なんですが,思いついた夢を実現させようという時に,何をどうやって集めて来るのか分かりませんが,いろんな人脈を辿って人を集めてきて,お膳立てをしてくれるんです。これが凄い不思議で。行動の先々で人脈をつくるのか,あるいは独自の人脈を持っているのか……。いつもいい具合にうまい話が転がって来るのって,なんなんでしょうね?
今のゲームを遊んでいても経営者は育たない?
川上氏:
要するに,最近流行っているようなゲームをいくら遊んでいても,経営者は育たないってことだな。
佐野氏:
連載のテーマ全否定ですね。
4Gamer:
しかし,「オンラインゲーム黎明期のプレイヤーはちょっと変わっていた」という話で少し気になったんですけど,結局,当時のゲーマーで,今現在成功している人ってどのくらいいるんですかね。
川上氏:
うーん,それはあんまりいないんじゃないですか。「Ultima Online」とかって逆に面白すぎて,人生を駄目にしちゃう作用の方が強かったと思うし。
佐野氏:
それはその通りかもしれませんね。
いや,僕らにとってはひとごとじゃないんだけど(笑)。
川上氏:
でも繰り返しになるけど,やっぱり“才能ある人”が多かった気はするんだよね。それも生粋のゲーマーというよりは,みんなあっちこっちから流れて来た“新しい物好きの人”みたいな空気を持って。いろんな人がいたじゃないですか。
4Gamer:
確かに。いわゆるコンシューマゲーム好きの文化とかとは,全然違うものだったように思えます。
川上氏:
PC業界の始まりとかもそうなんだけど,新しい業界の始まりってさ,いろんなとこから人が来るじゃないですか。そういう人達ってバイタリティがあって,才能ある人達が多いんだけど,生まれながらにその業界にいるっていう人達が増えてくると,その業界の活力というか,レベルが下がるってイメージがあるんだよね。
佐野氏:
ありますね。
川上氏:
ゲーマーの世界も,そういうのと同じなんじゃないの?
佐野氏:
んー。僕が対戦ゲームとかをしていて感じるのは,ぽっと出の“若い才能”が一番怖いってことなんですよね。ずっとやってる奴がある日突然強くなることはないんですけど,なんか全然知らない人がいきなり強かったりする。あるいは,強さの鱗片を感じさせられたりする。で,そういう人ってやっぱり,あっという間にトップクラスに昇格していくんですよね。
川上氏:
なるほど。でもそれは,みんな常に同じステージで戦う“ゲームならではの現象”だよね。これが現実世界の会社とかになると,若い奴には,とりあえず最初はでっち奉公みたいなこと――くだらないコピーとか――をさせるわけじゃん。そうやって才能をつぶしていく構造はあるんだろうなとはよく思うし。
佐野氏:
でも,単純作業でも「センスが見える」みたいな話ってありません? みんなが均一の仕事をしてても,そいつだけがちょっと光ってるみたいな。だからでっち奉公にも意味はある,みたいな話を誰かに聞きました。
それは,支配する側の理屈だと思う(笑)。
4Gamer:
でも,やっぱり若い人が頼りなく見えてしまうのも事実ですよね。……逆に若い人は「俺の方がうまくやれる」と思っていて。
川上氏:
そうは言うけど,新しい業界の始めの頃って,そういうヒエラルキーもないじゃないですか。だから実際,20代の頃から社長をやったりしている人が,20代からずっとその業界の中で重要な仕事をやっているから,20代の役職者/経営者だって現れやすい。一方で,成熟した業界だと,若い優秀な才能が現れても,そういう仕事をさせてもらえないから,結果も残せない。
4Gamer:
そこは難しい問題ですよね。
川上氏:
ドワンゴでも,途中から新卒を採りはじめたんだけど,1年目と2年目の新人は,凄くレベルが高かったんだよね。でも,3年目以降からはずば抜けた人が現れにくくなった。例えば,入社した最初の年から大活躍するような人がいなくなった。これ,ジブリの鈴木プロデューサに話したら,ジブリも同じだっていうんですよ。
佐野氏:
それは,たまたま優秀な人がいなかったとかいう話ではなくて?
川上氏:
うん。人の問題ではなく,あくまで環境の問題って話なんだけどね。つまり,新人から活躍するためには,すぐ上にいる先輩が邪魔ってことなのよ。むしろ素材としての人材の質ということであれば,今の新卒のほうが優秀なはずですよ。
佐野氏:
まぁ上に人がいなきゃ,逆にがんばるモチベーションにもつながりますしね。俺が前に出るぞって。
川上氏:
自分のすぐ上に人がいると,それだけで“諦めちゃう”とか“頼ってしまう”とか,きっとそういう話なんだろうね。で,そういう風になってしまうと,狭い視野でしか仕事をしなくなっちゃうし,大胆な挑戦もできなくなる。
4Gamer:
ただ僕は,ある種の「適性」みたいなものもあるのかな,とは思うんですよね。乱世の英雄と,安定期の宰相に求められる才能が違うように。
川上氏:
ああ,そういう意味だと,ゲーマーの世界も“総合力で強い人間”が勝てなくなっているという現象はあるんじゃないですか。ゲーム自体が新しい頃って,誰もそんなものに触れたことがないから,適応力の高い人間が強い。だけど,だんだんと専門化/特殊化していって,それに特化してしまうがゆえに応用力がなくなるみたいな。
4Gamer:
今の“凄いゲーマー”は,そのゲームに特化しすぎているという意味ですか。
川上氏:
うん。もっと不親切なゲームで,野生の環境で鍛えられたゲーマーなら,やっぱり能力が高いと思うんです。初期の「Ultima Online」じゃないですけど。今のゲームは,ちょっと親切すぎて。そのうえさらに攻略Wikiみたいな情報過多の状況だと,人は育たないですよね。
4Gamer:
確かに「思考力を鍛える」という意味だと,定石がないゲームの方が適切というのはありますよね。それに,やっぱり自分で試行錯誤するゲームが一番楽しいのは間違いないですし。
佐野氏:
そうそう! ゲームは自分で頭使っていろいろ試せるものが一番面白い。最近はちょっと,簡単なゲームばかりがもてはやされてますけど。
4Gamer:
理屈ではソーシャルゲームがはやる理由も分かりますけど,やっぱりゲーマーとしては,“そういうゲーム”が遊びたいんですよね。
川上氏:
そうだね。じゃあ,今日はそういう話にしておきましょう(笑)。ゲーマーは経営者に向いてるんだけど,そのためには,ゲーム自身が改革をする必要がある。あるいは,プレイスタイルを変えなければならない!……ってことで。
中野氏:
まぁ,みんな別に経営者を目指してゲームを遊んでるわけじゃないと思いますけどね。
川上氏:
……ときに中野君は,ゲームをやっていて何が面白いの? いつも負けてるし,いじめられてるけど。
中野氏:
え,いじめられてませんよ。誤解を招くようなことを言わないでください。
川上氏:
仕事もろくにしてないよね。
中野氏:
してますよ,酷いな(笑)。
佐野氏:
中野さん,なんでそこで嬉しそうな顔するの(笑)。
川上氏:
いやでも,中野君たちとあの辛い「セガラリー2」の仕事と,その後の「バーチャロン オラトリオタングラム」の仕事を終えて,僕はそこで燃え尽きて会社に2年ぐらい行かなくなったんだけど,中野君は,サラリーマンとして出社し続けたわけじゃん。僕は,いまでもそこに罪悪感を持っているんだよね。だからあの後,中野君が本当にろくに仕事してなかったことも知っているけど,悪かったなと思って。大目に見ているんですよ。僕はね。
(つづく)
川上量生(かわかみのぶお):
ドワンゴ代表取締役会長。1968年,愛媛県生まれ。京都大学工学部卒業後,ソフトウエア専門の商社勤務を経て,1997年に株式会社ドワンゴを設立。携帯電話向けサービス「いろメロミックス」などをヒットさせ,同社を東証一部上場企業へと成長させた。近年では,ニコニコ動画を成功に導くなど,独特の考え方をする実業家として知られる。2011年1月に突如としてスタジオジブリに入社し,プロデューサー見習いとして,鈴木敏夫氏に師事している。
- 関連タイトル:
ウルティマ オンライン
- 関連タイトル:
EverQuest
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