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印刷2008/06/04 11:50

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ゲーマーのための読書案内 / 第48回:キャラクターメーカー

ゲーマーのための読書案内
作られた物語から物語を作る 第48回:『キャラクターメーカー』→キャラクターゲーム,物語要素

 

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『キャラクターメーカー 6つの理論とワークショップで学ぶ「つくり方」』
著者:大塚英志
版元:アスキー・メディアワークス
発行:2008年4月
価格:780円(税込)
ISBN:978-4048700047

 

 エロ漫画雑誌の請負編集者から漫画原作者,文学とサブカルチャーの評論家の次は作家そのものという形で,自らのバックボーンと逐次的な経験蓄積を武器に活動エリアを広げてきた,大塚英志氏。彼は現在神戸芸術工芸大学で教授として教鞭を執っており,その講義内容をまとめたのが,近著『キャラクターメーカー 6つの理論とワークショップで学ぶ「つくり方」』である。主に漫画やアニメ,ライトノベルを念頭に置いたキャラクターメイキングの,かなり実践的な指南書だ。
 あの『キャラクター小説の作り方』を書いた大塚氏であるから,キャラクターメイキングといってもグラフィックスデザインの話ではない。もちろん見た目も含むのだが,説得力があって物語を転がすのに好都合なキャラクターの全体像は,どうやって構想すればよいかという内容である。

 氏は本書でも,いままで積み上げてきた評論のフレームと,氏のもともとのバックボーンである民俗学,物語論,近代文学と主体性の問題といった論点を自在に活用してノウハウを筋道立てる。そしてポイントごとに練習問題と,それを学生にやらせてみた結果としての作例をキャラクターイラストと説明文で示すことにより,たいへんイメージしやすいトレーニング手法を提供している。
 理が勝ってかまわない評論の類と違って,実際に漫画やアニメ,ライトノベルを書きたいと思っている少年少女がターゲットであるから,氏の著書としては異例なくらいの平易さである。

 とはいえ,当然ながら準拠枠はしっかりしている。キャラクターの順列/組み合わせ的性格というポストモダン的な議論と,テーブルトークRPG的なサイコロによるキャラクターメイキングから説き起こしつつ,「大人になれない/なることの難しさ」という手塚治虫の「アトムの命題」と,民俗学における通過儀礼/通過儀礼的神話,「ライナスの毛布」やぬいぐるみに代表される「移行対象」概念,「欠落を補う」という典型的なストーリーテリングの形,ロシアのウラジミール・プロップによる民話の構成分析などをエンジンとして,実際に“らしい”キャラクターを作るコツを,自身の作品例なども挙げつつ解説していく。
 ……まあその,いちいち説明していると書籍紹介の分限を越えてしまうので,上記のうちいかにもテクニカルタームっぽい言葉についてあらかじめ知りたいのであれば,各自Webで検索してみてほしい。

 また,平易で実践的なところばかりが本書の魅力ではない。本書には,氏がさらに進展させつつある手塚治虫研究(?)が部分的に盛り込まれており,有名な手塚のキャラクター=記号発言の背景には,1930年代に隆盛を迎えた(しばしば転向左翼による)映画評論からの借用が想定できるなど,なかなか興味深い指摘も含まれている。

 さて,教科書とはつねに古着であるから,これを捉まえてあれこれ足りない部分をあげつらうのは基本的にアンフェアだとは思うのだが,一応本書が持つ限界と思われた部分についても触れておこう。
 氏が想定しているのは,1本の美しく完結した物語を書くこと,そのためのキャラクター作りであって,そのための枠組みを,先人が蓄積してきた知恵/お気に入り集から抽出するという手法は確かに合理的だ。だが,青年の成長物語や孝行息子の立身出世譚,正直者がお金持ちになったり,野心家が身を滅ぼしたりするといった“収まりの良さ”に対する挑戦もまた,当世ならば俎上に載せるべきではなかったか。

 集合無意識的な世界(?)から,主人公らしく意を決して地上に戻ってきた碇シンジ君を待ち受けていたのは,共に世界を創造するための“エヴァ”ではなく,惣流・アスカ・ラングレーによる「気持ち悪ぅい」であった。これを単なる定石崩しと見るか,成熟=ハッピーエンドという秩序の失効宣言として読むか,あるいは視聴者によるハッピーエンド願望を見越した二次創作の促進策/リメイクの布石であるかなど,そろそろ創作者レベルで論じられてもよかったのではなかろうか? その意味で,本書はおおよそハズレのないあたりまでに抑えた,まことにリーズナブルな教科書に留まる。名人芸やきわどい技は,その先で各自身につけてくれというスタンスなのだろう。

 ともあれ,取り上げられているトピックと参考文献紹介はたいへん有益だ。『ジャパニメーションはなぜ敗れるか』の著者らしく「スター・ウォーズ」や宮崎アニメまで引き合いに出す,物語とキャラクターの優れた指南書であるのみならず,評論家・大塚英志氏のほかの仕事を楽しく読むための,格好の入門書にもなっている。意外にトラディショナルな物語要素に依存しつつも,「可能性の束」を内在させたゲームというメディアを愛好する人なら,読んでおいて損はないだろう。

 

流用物に対する,徹底した換骨奪胎は,盗作じゃないのです

プロップいわく,ロシア民話の構文は全部共通だと。

 

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■■Guevarista(4Gamer編集部)■■
無駄な読書の量ではおそらく編集部でも最高レベルの4Gamerスタッフ。どう見てもゲームと絡みそうにない理屈っぽい本を読む一方で,文学作品には疎いため,この記事で手がけるジャンルは,ルポルタージュやドキュメントなど,もっぱら現実社会のあり方に根ざした書籍となりそうである。
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