[GDC06#3]デモムービーで実感するAGEIAとPhysXの戦略
PhysX PPUのイメージカット
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4Gamerではすでに第一報が流れているが,世界初の物理演算専用チップ「PhysX PPU」(PPU:Physics Processing Unit)の出荷開始をアナウンスしたAGEIA Technologies(以下AGEIA)が,GDCの会場でもひときわ派手に活動してみせている。間接的なものはともかく,直接的な競争相手は存在しないため,CPU,グラフィックスチップ(GPU)に続いて,PPUが「PCの,第3の脳」になれるかどうかは,同社の戦略次第といったところかもしれない。
ここまでのAGEIAとPhysX PPUについてまとめておくと,今回のGDCで11月リリースが正式発表された「プレイステーション3」の開発用ミドルウェアに,物理エンジンのPhysXテクノロジーは仲間入りを果たしている。また,NCsoftの「City of Villains」をはじめとしたいくつかの発売済みPCゲームタイトルでもPhysXテクノロジーがサポートされるなど,ソフトウェア面では広く受け入れられ始めた。 一方ハードウェアでは,ASUSTeK ComputerとBFG Technologiesが5月に“PhysXカード”発売すると発表。さらにはDell,そのDellに買収されて完全子会社となったAlienware,そしてFalcon Northwestといった,北米で知名度のある“ゲーマー向けPCメーカー”が,PhysXのサポートを表明している。
■続々明らかになる対応タイトルと ■「PhysX PPUでできること」
AGEIAのTom Lassanske氏が,GDCで同社の戦略を明らかにした
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AGEIAのデベロッパリレーションズ・ディレクターのTom Lassanske(トム・ラサンスキ)氏はGDCで,PhysXテクノロジーのライセンス契約を行っているゲームデベロッパが100社を超えていると発表した。具体的にゲームタイトルまで発表されたのは氷山の一角に過ぎないが,ざっと以下に並べてみただけでも,注目に値するタイトルが並んでいる(括弧内はデベロッパ名)。
- Tom Clancy's Ghost Recon: Advanced Warfighter(GRIN)
- City of Villains(Cryptic Studios)
- Bet on Soldier: Blood Sport(Kylotonn Entertainment)
- Infernal(Metropolis Software)
- Cellfactor(Artificial Studios)
- Microsoft Rise of Nations: Rise of Legends(Big Huge Games)
- Unreal Tournament 2007(Epic Games)
- Vanguard: Saga of Heroes(Sigil Game Online)
City of VillainsやBet on Soldier: Blood Sportといった発売済みタイトルは,当然のことながら現時点だとソフトウェアのみによるサポートだ。この点AGEIAは「PCでリリースされるPhysXテクノロジー採用タイトルは,すべてPhysX PPUでハードウェアアクセラレーションの恩恵を受けられると考えて間違いない」という。
なお,今回明らかになったPhysX PPUの主な仕様は以下のとおりだ。- トランジスタ数:1億2500万
- ダイサイズ:182平方mm
- メモリインタフェース:GDDR3
- 独自機能:AGEIA Universal Continuous Collision Detection,AGEIA Physical Smart Particle Technology,AGEIA Complex Object Physics System,AGEIA Scalable 地形フィデリティ,AGEIA Dynamic Gaming Framework
Cellfactorは開発中のFPSだが,GDC会場では8人までのネットワーク対戦ができるようになっていた
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現時点でAGEIAからリリースされているSDK(ソフトウェア開発キット)Ver.2.4では,衣服や布のシミュレーションが追加されている。実際,GDCの会場でデモが行われていたFPS「Cellfactor」では,すでにインプリメントされており,銃撃によって布に穴が空いたりちぎれて吹き飛んだりという事象が,グラフィックスではなく物理演算で自動処理されているのだ。 Cellfactorについては後でテストプレイしてみるつもりだが,本格的な物理演算専用チップの登場が,ゲームシーンをどこまで変革することになるのか,興味は尽きない。Lassanske氏いわく,今後は風になびく草木や髪といった物理動作に続々対応していくそうなので,PhysXテクノロジーとPhysX PPUが成功すればするほど,ゲームにおける物理演算の重要性はいっそう増していくはずだ。 あとは,実際にPhysX PPUが普及するかどうかだろう。現在のところ,PhysX PPU搭載カードの価格は250〜300ドル程度になると発表されているが,この価格でどこまで市場から受け入れられるのか,注目していきたい。
最後になるが,PhysXテクノロジーとPhysX PPUの効果を示すデモムービーを3本入手したので,4GamerにUpした。1本は上で触れたCellfactor(2分20秒:87.3MB,WMV)で,銃撃によって布に穴が空くシーンこそ含まれていないが,大量のオブジェクトが爆発によって飛び散ったり,あるいは超能力によって集まったりするさまは必見だ。 もう1本はBet on Solidier: Blood Sport(1分1秒:40.0MB,WMV)。Cellfactorほどインパクトはないが,よりリアルになった炎の動きなどをチェックできる。 最後の1本は「Hang of Doom」というデモを実行したもの(1分0秒:39.5MB,WMV)で,PhysX PPUの有効時と無効時における,物理処理の違いが分かるようになっている。
いずれも見れば「ああ,確かにこれまでとは違うかも」と思えるはず。ぜひダウンロードして,チェックしてみてほしい。(奥谷海人)
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