●Preview#46
WWE Raw
Text by 奥谷海人
PCに久しぶりのプロレスゲームが登場
アメリカでここ数年に渡ってゴールデンタイムにテレビ放映されるほどの人気を誇っているプロレスだが,プロレス系格闘ゲームとなると,コンシューマでは大きな売り上げを伸ばしているものの,PCゲーム市場に向けては長い間投入されることがなかった。
「WWE Raw」は,イギリスのTHQ社がリリースしてきた一連のシリーズの最新作で,Xbox用として2002年2月に発売された「WWF
Raw」の移植版である。PC版でもXbox版と寸分違わぬクオリティで移植できるとTHQの関係者は意気込んでおり,一風変わったPCゲームで息抜きをしたいゲーマーには,嬉しいタイトルの登場となりそうだ。
"WWE"(World Wrestling Entertainment)とは,プロレスファンには馴染みの深い米プロレス団体"WWF"(World
Wrestling Federation)が,世界自然保護基金(World Wildlife Fund)の提訴を受けて,WWF Raw発売後に改名したもの。マクマホン一家によって運営されているのは変わりないが,最近解散したライバル団体WCWから多くの選手を雇用したためストーリーの軸がぶれ,昨年あたりからは人気にも陰りが見え始めている。それでも「No Mercy」や「Wrestlemania」,「Smackdown」など,WWEとライセンス契約を交わして次々と作品を投入してくるTHQシリーズの売り上げは高く,現在でも発売されればすぐにトップランクに名を連ねるのは変わりない。
WWE Rawの開発を手掛けているのは,日本で「Ultimate Fighting Championship」などで定評のあるアンカー社で,Akiの「WWF:No
Mercy」など,プロレスゲームでTHQ社が日本勢の力を借りているのがよく分かる。WWE Rawは,とにかくテレビ番組でよく見る演出を意識しており,キャラクターのディテールへのこだわりが魅力的な要素となっている。好きなレスラーを選んでゲームを開始すれば,各レスラーに合わせたイントロミュージックとともに入場シーンが始まり,アンダーテイカーならハーレーダビットソンで登場したり,カート・アングルならオリンピック出場で獲得したゴールドメダルを見せつけながら歩いてくるほどの懲りようだ。入場シーンは爆発効果や各種照明付きで,名前の表示などもテレビ放映を彷彿とさせる。それぞれのレスラーの仕草や表情といった身体的特徴もよく表れていて,リプレイモードでテレビ以上にクロースアップになる彼らの表情を見ていると,こっちまで痛く感じるほどだ。
"スタミナ" "体力" "ファンの声援"という三つの要素
WWE
Rawでは,RTSにおけるユニットの体力値のような,キャラクターの近くに表示されるバーが存在する。これは,そのキャラクターの持つ"スタミナ"を示している。これまでの格闘ゲームのようにキャラクターの体力がなくなってしまうまで活発に動き続けられるのではなく,残りのスタミナ値によってレスラーがどのような動きができるか決定されるシステムで,スタミナが高いほど相手を押さえつける力が強いというわけ。つまり,簡単なチョップやキックであればほとんどスタミナを消費することはないものの,ボディースラムやスープレックスなどの大技を使用するためには一定量のスタミナが必要となるのだ。
このスタミナ値は,別に存在する体力値とはかなり性質が違う。例えば,スタミナ値は立ち止まることによってかなりのスピードで回復するのだ。これによって,プレイヤーはいつ,どのような大技を繰り出すかという戦術的な思考が求められてくるのである。ちなみにWWE
Rawではどんなことをするのにもスタミナが必要で,走るのにも,パイプ椅子を振り回すのにも,いくらかのスタミナ値が消費されていく。感覚でいうと,椅子は6回ほど振り回せばすべてのスタミナが消費されてしまうようだ。しかしスタミナ値はかなりのスピードで完全回復するので,少しの時間を空ければ大技を連発できる。相手のスタミナや体力の消耗を見切りながらの戦いが,このゲームの重要な要素になるのではないだろうか。なお,体力値はスタミナバーの右側のボックスに表示されるようになっていて,このボックスが急速に点滅を始めると,より相手の関節技攻撃にギブアップしたり,3カウントを奪われやすくなる。
数少ないインタフェースの中でも異彩を放っているのが,ゲーム画面下方にある"ボルテージメーター"という大きなバーである。これは,どれだけファンが自分に味方しているかを示すユニークなもので,プレイヤーの人気度やハデなプレイによって変動される。このバーの値が高いほど,敵のレスラーに対するフィニッシュムーブを繰り出すチャンスが増えるのだ。アンダーテイカー,ロック,ストーンコールド・オースティンといったWWEの中でも絶大な人気を誇るレスラーたちは,ゲーム開始時点ですでにボルテージメーターにハンデが付けられている。とくにこのようなレスラーたちと対峙するときには,プレイヤーはさまざまな技を繰り出して観衆を魅了しなければならず,同じような小技ばかりでコツコツと相手の体力を削り取っているだけでは勝利は難しい。かなりの努力をしなければ,観衆の目をこれらのレスラーから引き離し,自分のバックにつけることが難しいのだ。
このボルテージメーターの存在は,選択するレスラーによって有利不利が出てしまっているのだが,ファンの声援によって支えられているWWEというエンターテイメントを考えた場合,必ずしも間違ったシステムではないだろう。逆にヒール役でプレイし始めて,アンダードッグからファンの支持を勝ち取っていくという楽しみも味わえるのは確かである。
ゲームに登場するアイテムを使って,オリジナルキャラも制作できる
昨今の格闘ゲームと同じく,WWE
Rawは完全3Dのグラフィックスでリング内外を表現しているが,先述したように,リングの外に出てさまざまなオブジェクトを入手できるのが面白い。パイプ椅子やマイクをかっさらって攻撃するのはもちろん,リングの周辺に散らばっている箱の中から,チェーンやプラカード,サングラス,さらには古タイヤやハンガーのような不思議アイテムまでも入手できる。そのアイテム数はなんと150種類。バンダナやマスク,ジャケットといった攻撃に役立たないアイテムもあるが,それらは1度見つけるとレスラーに着させることができ,次のマッチに持ち越すことも可能なのだ。そして先述したアンダーテイカーのオートバイのように,次回からの入場アニメーションにも反映される。
多様化しているプロレス業界を考慮しても,WWE Rawのゲームモードは種類が多いとはいえない。用意されているエキシビジョンマッチは,1対1,タッグマッチ(2対2),トリプル・スレット(3対3)のほか,バトルロイヤルや1対複数のハンディキャップなどもあるのだが,ウィニングコンディションやリングのバラエティが少なく,オリや鉄線を使ったようなリングも期待できない。
それでもチャンピオンベルトを狙ってのタイトルモード(キャンペーン)は魅力的で,レスラーに装着させるアイテムを増やしていくのはなかなか楽しい。また,WWEのライト級とヘビーウェイト級のほかにもインターコンティネンタル,ハードコア,ヨーロピアン,ウーマンズの六つのチャンピオンシップがあり,WWEチャンピオンシップでは12戦ほど戦わなければならないのに対し,参加人数の少ない女性レスラー専用のウーマンズでは,3マッチ勝つだけで頂点に上り詰められる。チャンピオンベルトもレスラーの腰に装着できるし,複数のチャンピオンシップを制覇した場合なら残りを肩にかけて入場するるといったアニメーションも見られる。
さらにWWE Rawには「Create-A-Wrestler」というキャラクター制作ツールも同梱されていて,自分の好みのレスラーを作ったり,既存のレスラーを改造したりできる。髪の毛の色や長さ,肌の色,腰回りの太さ,そしてシャツやタイツのテクスチャといったことが細かく設定できるようになっている。
このゲームには,WCW/ECWとの統合が始まったころしか登場しないので,このツールはファンにとって非常に役立つものになるはずだ。さらにはハルク・ホーガンやブッカーT,ロブ・バンダムなどのゲームに登場しない人気レスラーも,簡単に作り出せるようになっている。残念なのは,男女16体分の顔グラフィックスしか用意されておらず,新規レスラーのスロットも16しかないことくらいだろうか。
WWE Rawは,欧米では2002年10月初旬に発売される予定。ネットワークを使ったマルチプレイヤーモードなどはないものの,ゲームパッドやキーボードを使い分けての対戦ができる。ゲームバランス以上にキャラクターモデルの完成度やテレビ的な演出を意識したゲーム作りになっているようだが,その分WWEファンには堪らないゲームになるはずだ。
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