Unreal II

●Preview#27:Unreal II

Text by 奥谷海人

UnrealIIは,3社共同戦線で開発中

 1998年に登場したEpic Gamesの「Unreal」は,「DOOM」「Quake」シリーズに続く第1人称視点型のシューティングアクション(FPS)として人気を博し,その美しいグラフィックスで多くのプレイヤーを魅了したゲームとして記憶に新しい。対抗馬だった「QuakeII」の売り上げには及ばなかったし,その後発売された「Half-Life」にも話題を奪われてしまう恰好になってしまったが,高性能のグラフィックエンジンは30以上の会社にライセンスされ,「The Wheel of Time」や「Deus Ex」などの作品を生んでいる。
 Unrealの発売当初はネットワークエンジンの不完全さが指摘されていたが,その後に頻繁なアップデートで改良を行い,その努力が「Unreal Tournament」へと結実した。そのデキの良さはハリウッドにも認められており,スピルバーグ監督の「A.I.」では,特殊効果を担当したILMが撮影前のカメラや役者の動きをチェックするために,Unrealのゲームエンジンを使ってセットのコンピュータグラフィックス版を製作したほどだ

 さて,ロバート・ジョーダンのファンタジー小説をアクションゲーム化したThe Wheel of Timeは,その難解な操作性のためか販売本数こそ伸びなかったが,Unrealエンジンを極限まで利用したゲームとして多くの業界人やコアなファンには評価されていた。開発元のLegend Entertainmentといえば,1980年代あたりから存在する中堅の開発会社で,「Shannara」「Spellcasting 101」など,ストーリー性重視のアドベンチャーやRPGを作っており,それまでアクションゲームは未体験だったのだ。ところが,Unrealエンジンを改良したテクスチャ表現を始めとする諸技術が,発売以前からEpic Gamesの面々に評判となり,1998年の時点ですでに「Legend EntertainmentがUnrealの次期作品のためのゲームエンジンの製作に関与している」と噂されていた。つまり,2002年の第2四半期に発売が予定されている「UnrealII」はEpic Gamesでは製作されておらず,その技術が評価されたLegend Entertainmentがコアとなって開発しているのだ
 ただし,世の中で広く考えられているように"Unrealエンジン"と"UnrealIIエンジン"という線引きは存在せず,Unreal Tournamentのゲームエンジンを含めて全て同一のモノであることに注意。Epic Gamesでも"UnrealIIエンジン"という呼称は用いられておらず,UnrealIIもUnreal Championshipも,"Unrealゲームエンジンの最新版"で製作されているとしている。正確にいうと,UnrealエンジンBuilt739からDirectX 8やXboxへの対応がなされており,このバージョンのゲームエンジンからが新世代なのだと考えられるだろう。Epic Gamesのライセンス業務を見ても一つのゲームエンジンとして契約しているらしく,今後発売される予定の「Duke Nukem Forever」や「Deus Ex2」なども,UnrealIIに見られる諸機能を携えることになると思われる。

 ちなみに,Xbox用に開発が進められている「Unreal Championship」は,カナダのオンタリオを拠点にするDigital Extremeが担当している。Digital Extremeは,以前からEpic Gamesブランドのピンボールゲームなどを下請け開発していた会社で,Unreal TournamentもEpic Gamesと共同で製作した経験を持っている。これら3社は,企業秘密さえも分かち合えるような,非常に仲の良い兄弟のような会社だといえる。
 Epic Games自体もソフト開発は継続しており,Unreal Tournamentの後継版にあたるネットワーク専用のPC用FPS「Unreal Warfare」を製作している。このタイトルに関しては,残念ながらEpic Gamesからは公式に発表は行なわれていない。おそらくは,UnrealIIが発売されてからの正式公開となるのだろう。

最強のグラフィックエンジンで表現された,ストーリー重視のゲームプレイ

 前置きが長くなった。ここで紹介するのは,Legend EntertainmentがPC用に製作しているUnrealIIである。5月にロサンジェルスで開催されたE3では,"Closed Door"と呼ばれるプレスやバイヤーに限定した裏部屋での発表のみにとどまったが,まるでグラフィックカードのテクノロジーデモを見ているかのような想像を絶するグラフィックス技術の高さには,筆者自身も言葉を失うほどだった。
 GeForce 3やRADEON 8500で表現されたDirectX 8.1の諸機能――とくに,独自にプログラム可能なバーテックス/ピクセル・シェイダー機能――をフルに利用し,照明効果や爆発,煙などが非常にリアルでユニークなデキ映えになっている。ハードウェアT&Lを最大限活用しているとのことで,少なくともGeForce 2レベルのグラフィックカードは必要となるだろう。この最新ゲームエンジンは屋外マップの表示も難なくこなし,地平線の彼方までが美麗に表現されているのが凄い。リアリスティックな水面や水の流れといった描写はもとより,陸地に生える草木のひとつ一つが緻密なポリゴンで製作されている。Unrealでも岩山の上空を舞うトリの姿は確認できたが,UnrealIIではさまざまな原生動物が登場するようだ。

 UnrealIIのストーリーも,その後かなりの部分が判明している。プレイヤーキャラクターの役どころは,"Terran Colonial Authority Frontier Marshal"(TCAFM:テラン軍植民当局前線部保安官)という長ったらしい役職名を持った若き兵士。この組織は,24世紀の銀河の果てに派遣される治安部隊で,アメリカの西部時代を連想させる無法地帯における人間族の植民者や一般市民たちの安全を守るために結成されたものである。
 E3での発表時点では,シングルプレイヤーモードは七つの惑星にまたがる25ミッションで構成されるとアナウンスされていたが,その後は10種類の"環境"に,13ミッションにまとめられた30レベルからなる,としている。"環境"というのがミソで,ひょっとしたら惑星外での戦闘も考察されているのかもしれない。実際E3では,アステロイドベルトの中を無重力状態で浮遊しながら戦闘するようなマルチプレイヤーマップのシーンも紹介されていた。
 ゲームは,軍務を放棄して人質と共にたてこもった反乱兵たちの鎮圧に乗り出すところから始まる。プレイヤーたちは,これらの兵士たちが未確認のエイリアン種族との抗争を経験した者たちであることを突き止める。この戦闘は,古代種族の遺品の争奪が目的で行なわれたものらしく,プレイヤーたちは遺品とその謎を求めて旅を始めるのだ。遺品には数種類あり,どうやら銀河の覇権を握るのに重要な役割を担う武器でもあるらしい。見つけるとエンジニアのアイザックというキャラクターが解析し,プレイヤーは次のミッションに使用できるようになるというRPG的な要素も含まれている。また,ただ向かってくる敵を撃つだけでなく,NPCとの会話やマップを進行していくための簡単なパズルも適度に組み込まれた,複合的なゲームプレイになるようだ。
 とくに,マリーン3人ほどの仲間を引き連れて進行していくようなチームプレイを体験できる場面もあり,SWAT3などのコンバットアクションゲームほどではないにせよ,FPSとは違った戦略性も表現されている。このチームプレイ専用のインタフェースも存在し,特定の場所を守らせるなどの命令を与えることもできる。このようにUnrealIIでは,通常のFPS以上の要素も随分と用意されていることが分かるだろう。

多彩なNPCとユニークな会話システム

 Unrealの第1作めは,Quakeシリーズのid Softwareの開発方針に見られるような「ストーリー性よりもアドレナリンを噴出させるアクションの連続を重視」という,既存のFPSの殻を打ち破ろうとした形跡はあった。しかし,その後登場したHalf-Lifeとも比較されることさえないほど未熟な仕上がりだったし,小さく区切られたレベルが批判されることも多かったようだ。開発元のLegend Entertainmentはこのあたりを重点的にテコ入れしており,Half-Lifeのようにスクリプト化されたムービー(ゲームエンジンをそのまま利用してゲーム中に継続的にイベントを発生させること)やNPCとの会話なども豊富に盛り込んでいるのである。
 すでに公開されている画面写真などでも,NPCとして頭のてっぺんを無造作に結んだ女性キャラを思い浮かべることができる。彼女の名前は"アイーダ"。プレイヤーにミッション内容や状況を伝えてくれる仲間の一人である。英語でのスペルも,オペラなどでも有名な女性名の"Aida"(アイーダ)と表記されているものの,開発者の間では"アイダア"という奇妙な発音に統一されているらしい。しかし本稿では,とりあえずはアイーダとしておこう。

 アイーダは,プレイヤーの本拠となる宇宙船アトランティスの管制室におり,彼女との会話は主にミッションブリーフィングとしての役割を果たす。デモでは,アトランティスの別の場所にいた主人公が呼び出され,管制室まで歩いていってアイーダと話をする,というような局面もあった。キャラクターモデルのディテールは素晴らしく,前作の100倍以上というポリゴン数で表示されており,顔の表情なども豊かに表現されている。もちろん,音声に合わせる形で唇が動くし,プレイヤーの場所によって頭や体の向き,果ては眼球の位置までを変化させる。この仕様はアイーダに限ったことではなく,全編で登場する15人というNPCや,25種類程度の敵やエイリアン生物でも同じだ。
 ほかにもアトランティス号のクルーとして登場するキャラクターは数名おり,異星人パイロットのネ=ヴァン,そしてエンジニアのアイザックなどが知られている。主人公を含めた4人に共通するのは,これらの兵士たちは全員,地球軍のやっかい者だということだ。
 例えばアイーダは,素行の悪さがたたってナイトウィング・コープの師団長から解任された身分だし,アイザックは激戦でのトラウマから狭心症を患い,正規軍から解雇された経歴がある。ネ=ヴァンに至っては,"惑星間候補生留学支援プログラム"で友好的(しかし文明的には劣勢)な種族から送られてきた特待生ではあるものの,地球軍は実際に彼をどのように扱っていいのか分からず,とりあえずTCAFMに配属されているという設定なのだ。悲しいのは,そんな上層部の事情をネ=ヴァン自身は全く知らず,むしろ誇りを感じて自分の任務を遂行しているということだろう。

 ここで,UnrealIIにおけるNPCとの会話システムについても言及しておこう。NPCとの会話においては,5種類程度の違った返答から選択して会話を進めていく,というシステムが採用されている。アクションシーンが命のFPS系のゲームとして非常にユニークな試みだが,この会話システムが古今のアドベンチャーゲーム以上に精巧にできているのが面白い。
 返答のパターンによって会話内容が自在に変化していくし,アイーダとのミッションブリーフィングの途中で部屋を出ようとすると,彼女が怒りながら罵りの言葉を浴びせてきたりする。前述のように,会話中でも表情は変化するのだが,Deus Exを始めとする既存のゲームのような口パクではなく,実際に周囲のポリゴンの形状が変形しながら表情を作り上げるのである。これは"状況ベース感情システム"と呼ばれており,プレイヤーの態度が,NPCやクルーたちの言葉使いや接し方にダイレクトに反映するのだ(その後のNPCの反応の仕方にも影響するのだという)。ただし,こういう細かい作り込みは,そのデキ映えや技術力はともかく,アクションの妨げを起こす要因の一つになりうるものともいえる。DOOMからSerious Samへと綿々と続くアクション重視のFPSファンには,評価の分かれるところかもしれない。

UnrealIIならではの見せ場が満載

 オリジナルのUnrealで登場したエイリアンの中では,スカージ(Skaarj)のみが再登場することが分かっている。異なる肌の色彩や筋肉の動きまでが伝わるような,バンプマッピング技術を始めとする繊細なテクスチャやアニメーションシステムが魅力的で,前作のキャラクターモデルが随分と古臭く見えてしまうほどだ。
 ちなみにUnrealIIではスカージにもスポットが当てられており,胸部に施されたタトゥー(入れ墨)のパターンで部族や組織が違うことが分かるのだ。実際ストーリーが進行するにつれて,タトゥーのパターンの違うスカージ同士が争い合っている局面にも遭遇するなど,スカージ種族にまつわるサイドストーリーも見ものとなるだろう。プレイヤーも,このパターンを見分けながら敵か仲間かを判断しなければならないのかもしれない。目の前に現れる形を見て攻撃するのではなく,その皮膚の入れ墨を確認しなければならないという,細かいテクスチャ技術を持つこのゲームならではの戦闘になりそうだ。
 しかし,UnrealIIに登場するエイリアンはスカージだけではない。古代種族の遺跡を狙って,ほかに5種類ものエイリアンたちが登場するのだ。現時点でも,これらのキャラクターモデルはアートワーク以外公開されていないが,毛むくじゃらで6本足のウシのような風体を持ったイザリアン(Izarian)や,海中に住む軟体性のシャイアン(Shian)というものが予定されているようだ。なお,スカージのほかにも敵対したり味方としてゲームに登場するマリーンや雇用兵の3種類に関しては,軽装備,中装備,重装備の3タイプのアートが用意されている。中には"Japanese Mercs"(日本系雇用兵部隊)というアジア風のテクスチャが使用されたものもおり,FPSでは意外に少ないアジアの影響も垣間見ることができるかもしれない。

 武器は,なんと15種類から18種類程度が用意されることとなり,UnrealIIでユニークなものとしては,リーチガンと名付けられた敵のアーマーに付着して弱体化させるものや,スカンガンのような至近戦用の兵器,さらにはタックラと呼ばれるエイリアン種族の武器で,放射したドローン(小型エイリアン)が敵の姿を探して進んでいく,というようなものもある。しかし,Unrealのリリース時には「パッと見に何の武器なのか判断しにくい」というファンからの声が多かったことから,ピストルやマシンガン,火炎放射器など現代的なものも多く用意されることになるという。
 Unreal以降のアクションゲームシーンでは標準的になった"セカンダリーウェポンシステム"も健在で,これらすべての武器には2次的な攻撃力が備えられる予定になっている。ロケットランチャーが三つの小型ロケットを発射し,ライフルは壁に当たるとはね返って別方向に飛ぶような弾力で攻撃するなどするという。火炎放射器は,しばらく後に火を吹き始めるような時間性の爆弾を発射できるのだ。
 Unreal Warfareがネットワーク専用になるとはいえ,UnrealIIのマルチプレイヤーモードも手が込んでいる。最大で32人までのプレイヤーをサポートする予定で,マリーン,雇用兵,スカージの3タイプの中から,3種のキャラクタータイプを選択してプレイすることができる。この3タイプは,グラント系,スカウト系,そしてエンジニア系に分かれており,「Team Fortress」のようにエンジニアがロケット砲台を建てることで,自軍の陣地を防御するような遊び方になるだろう。
 加えて1対1での対戦モードもテコ入れされており,1種族の3タイプのキャラクタークラスを,すべてコントロールして戦い合うというような"コマンダー・モード"が追加される予定だ。つまり,プレイヤーは2人だが,6人のキャラクターが走り回るというわけだ。詳細は公表されていないものの,前述のようにシングルプレイヤーモードでもフィーチャーされている,部下への命令システムを利用したゲームモードになるらしい。
 もちろんゲームモードは,デスマッチやキャプチャー・ザ・フラッグ,ラストマン・スタンディングなどが用意されている。さらに,コンバットアクションやパズルの要素も取り入れられたUnrealIIだから,協力モードでシングルプレイヤーのストーリーを進行させられるようにもなっている。

 以上のようにUnrealIIは,間違いなく2002年期待の作品。作り込まれたシングルプレイヤーモードに加え,マルチプレイヤーモードも十分に魅力的だ。また,今後のグラフィックス技術やゲームプレイの方向性を知るうえでも,非常に重要なゲームになるだろう。UnrealIIには,最新版のUnrealEdマップエディタも添付される予定で,コアなゲームファンやMOD製作者の取り込みを意識した展開も予想される。

Unreal II ゥ2001 Epic Games Inc. Created by Legend Entertainment in collaboration with Epic Games. Unreal II and the Unreal logos are trademarks of Epic Games, Inc. All rights reserved. All other tradmarks are the property of their respective companies.