●Preview#30:Shadowbane

Text by 奥谷海人

 すでに3年ほどの期間をかけて制作されている「Shadowbane」 は,テキサス州オースティンに居を構えるWolfpack Studios社の処女作となる大型オンラインロールプレイングゲーム(MMORPG)である。一時はGathering of Developers社によって販売されることが決定していたものの,同社の経営難からそれもキャンセルになり,2001年は販売元がない苦しい状態が続いていた。MMORPGは,毎月ごとにアカウント保持者(プレイヤー)からの使用料が入ってくるのが旨みではあるものの,サーバーの維持費などの投資額が多い分,開発元や販売元にとっては,サービスを軌道に乗せるまでの経済的体力が求められる。今までアメリカで成功してきたMMORPGをみても,Electronic Artsの「Ultima Online」,Sony Online Entertainmentの「Everquest」,そしてMicrosoftの「Asheron's Call」と,業界大手をバックにつけている作品が多いのだ。
 幸運なことにShadowbaneは2001年8月の段階になって,アメリカでも勢力を伸ばしつつあるフランスの大手,Ubi Softとのライセンス契約を行い,再び大きなチャンスを得ることになった(2001年E3で今一つハキがなかったのも解消されただろう)。現在では2002年4月からのサービス開始を目指して,非公開ながらもβテストが行なわれている。ヨーロッパでは,ドイツに本社のあるSwing! Entertainent社と提携しているのに加え,アジア圏でも香港をベースにするEn-Tranz Entertainmentによるサポートが発表されたばかりで,各国語や中国語はもとより日本語への移植も行なわれる予定だ。なにより,発売前から多くのファンを抱え,未発売のゲームにしては異例なほどの数のファンサイトを持っているShadowbaneは,2002年度のMMORPGとしては相当な注目作だといえるだろう。コアなプレイヤーの間だけとはいえ,日本国内でも期待するファンは多い。

Aerynthの世界で繰り広げられる数万人の攻防

 Shadowbaneでは,最近のMMORPGがそうであるように,ストーリー性を重視した時間の流れを計画しているようだ。5年という歳月をかけて語られることになるメインストーリーは,プレイヤーたちの行動によって決定されていくことになるのである。もちろん,現時点ではそのストーリーがどのようなものになるかは定かではないものの,暗黒時代から脱却して新しい王国を築き上げるというテーマになるのではないだろうか。
 Shadowbaneの世界はアイリンス(Aerynth)という大陸を舞台にしており,数多の戦争によって文明自体が崩壊してから100年くらい経った時代となる。"全界の父"(All-Father)と呼ばれていた偉大な神が世界に背を向けたために伝染病や飢饉が蔓延し,心のすさんだ人々によって血で血を洗う殺し合いが続けられていたのだ。こんな混沌の中から,勇敢な戦士は仲間を集めて城や街を掌握し,激しい戦いの間に多くの文明遺産も失われていくこととなった。
 Shadowbaneというのは,この世界に古くから伝わる秘刀の名前であり,アイリンスの地を揺るがす大戦争が起こったときには,いつもShadowbaneが登場して"Turning"と呼ばれる時代転換の鍵となってきた。ゲームの世界は,まさにShadowbaneが登場する直前というところで,光に包まれた新しい時代の覇者となるため,プレイヤーたちは国家を賭けて戦うことになるのである。

 こういう壮大なバックストーリーが練り込まれていることもさることながら,最近のファンタジー系MMORPGでは大きな命題となっているのが,いかに多くのプレイヤーを物語に干渉させるかということである。これまでは,多くの作品においてストーリーが用意されていても,プレイ自体には絡んでこないというのが実情だった。
 そこでWolfpack Studiosで考え出されたコンセプトが,「プレイヤー1人1人の行動がメインストーリーに大きく影響を与えていくことになる」という"ストーリーアーク"というものである。バックストーリーからも想像できるように,プレイヤーの総体的な目的は新しい時代に向けての扉を切り開くことあるのだろうが,そこまで到達する手段はプレイヤーの自由。健全な都市の治安を守っても良いし,新時代の到来を邪魔立てしても構わない。世界をコントロールするのはプレイヤー自身であるという発想だ。さらには,その世界の状況に促した形でイベントやクエストも発生していくのだという。

大規模なギルド戦争が持ち味

 しかしShadowbaneを真にユニークなものにしているのは,プレイヤーが集まって形成される"ギルド"に重点を置いていることである。それぞれの町は,ギルドのリーダーを長としたカウンシルメンバーによって町の運営方法や外交戦略が決定される。ギルドのリーダーには数々の特典があり,"タクティクス"(戦略)などギルドリーダー専用のスキルを利用して,戦時においては自分のギルドのプレイヤーにフォーメーションを組ませるようなこともできる。これによって,個人戦ではなく部隊による戦いを可能にしているというわけだ。ギルドリーダーには,全兵士に1度に命令を下せるような専用のチャットシステムが用意されているため,無駄に叫んだり何人もの伝令を走らせるなどの必要もなくなっている。また,ギルドリーダーはカウンシルの任命権や戦功のあったプレイヤーへの称号授与などの特権を持っているほか,リーダーの独裁的な判断に委ねられるMonarchy(王政)から,ギルドメンバー1人1人の投票で決定されるDemocracy(民主主義)まで,ギルドの政治体系を4種から選択できる
 こうして,ギルドが治めていた町は大きく発展して王国となっていく。上記のようなストラテジーゲームの要素もフンダンにあしらわれており,プレイヤーたちが治めた金でショップや見張り台なども建築できるようになっている。弱小ギルドは勢力のあるギルドに恭順することも可能で,巨大なギルドと支配地域が出来あがっていき,近隣の地域とのモンスターと戦ったり敵の都市へ攻め込んだりしているうちに,王国はさらに巨大な帝国へと成長していくのである。その過程では大きなギルド戦争へと発展することも考えられるだろう。

 プレイヤーギルドを作るには,あらかじめ設定された13種類のギルドのテンプレートを選択して登録する必要がある。これらは,「Amazon Temple」や「Mercenary Camp」「Ranger's Brotherhood」などとなっており,それぞれに特殊スキルや建物が用意されているようだ。プレイヤーキャラクターはギルドのテンプレートに関係なく職業を設定できるようだが,その職業を持つキャラクターなら経験値やスキルへのボーナスポイントが加えられることになる。また,「Dwalf Hold」(ドワーフ族)や「Noble Court」(ヒューマン)のようにキャラクター種族に特化したテンプレートも存在する。もちろん,プレイヤーギルドには自分たちで考案したユニークな名前を付けることができる。
 プレイヤーが町を作るには,ゲーム中にTree of Life(生命の木)のタネを入手することから始まる。生命の木は町の中核となるべき存在で,まさしく全世界に生命の息吹を与えるというものだ。町を育み,死んだキャラクターを活き返らせるような力を秘めた神秘的な樹木である。ギルドリーダーは,この生命の木の力をコントロールでき,先に挙げたような儀式的な事柄ばかりでなく,物資やサービスの値段までを設定できるのだ。ただし,このタネの入手経路には仕掛けがされているらしく,簡単に見つけられるものではないようだ。
 さらには,護衛用のアーチャーのようなNPCガードマンも雇用することができ,自分たちの城を四六時中守ってもらうことも可能だ。建物は,ギルドホールや宿屋などにいるNPCの建築士から証書を購入し,空き地に建てることで建設する。個々の建物には最大で3段階までのレベルがあり,レベルアップするごとにさらに大きく,強靭になっていく(なお宿屋や鍛冶屋のような非戦闘用施設でも,NPCに管理させることができる)。オフィシャルサイトには建物のリストもあり,都市内部に建てるための個人用の住居施設も6種類ほどあるようだが,一定の住居料のようなものを定期的に収めることで自動的に管理してもらえる。また,各種攻城兵器なども生産可能なので,ギルド戦争では町の争奪を目指して攻撃してくることもあるだろう。攻めるばかりではなく,守ることも考えなければならないというのはオンライン専用RPGでは新鮮な試みだし,兵力では及ばない敵にはアサシン部隊で奇襲するなどの戦法も使えそうだ。
 ギルドというコンセプトが,単にアドベンチャーを楽しむための寄り合いから脱却しているのは非常に興味深い。いろんな地域に飛び回るような従来なプレイから,より自分の町付近に根付いた冒険や戦いが中心になるのだろうか。もちろん,プレイ中には最大10人までのパーティーを組むこともできるようになっており,ギルド運営以外での冒険も問題なく楽しめるようになっている。

建物 レベル 1 建物 レベル 3

ユニークなプレイヤーキャラクター

 プレイヤーが作れるキャラクターは,現在のところ一つのアカウントにつき5人までとなっている。キャラ制作時にはファーストネームとラストネームを付けることができ,例えばBobby Silverbladeのようにするとか,Bobby the Conquerorのような呼び名を与える。ラストネームはギルド名とか氏族名のように統一することが可能で,一つのサーバーではファーストネームのみが他人には使われないようなユニークなものとなっているのだ。選択できる種族は,次のようになっている。

  • エルフボーン(ハーフエルフ)
  • ドワーフ(男性キャラのみ)
  • エルフ
  • ハーフジャイアント(男性キャラのみ)
  • ヒューマン
  • イレケイ(デーモン族のようなもの?)
  • シェイド(ダークエルフ族のようなもの?)

 一般的なファンタジーものにはお馴染みの種族ばかりでなく,Wolfpack Studiosオリジナルのものがあるのは面白い。これらのキャラクター種族を選択した後は,従来のゲームと同じく,肌の色や髪型を自由にカスタマイズできる。さらにShadowbaneでは,Restricted Race(被制限種族)と呼ばれる種族がおり,プレイヤーキャラクターとして使用できるようになっているのだ。これらは,鳥獣人のアラコイックスや,体半分がウマになっているケンタウルス,そしてウシの頭部や足になったミノタウルスだ。現在のところ,これら3種に関しては初期設定では選択できないようになっているというほかは,どういう形で使用できるようになるかは明らかにされていない。今後の発表が気になるところだ。
 キャラクターの職業は,ベースとなる基礎的なもの4種のみとなっており,ファイター,ヒーラー,メイジ,ローグを選択し,それに見合ったスキルやパワーにポイントを振り分ける。もちろん,ゲームをプレイしてキャラクターを育て上げる過程で,特殊なクラスに昇格したり,マルチクラス(複数の職業種を持つこと)になることも可能だ。ちなみに特殊クラスになるためには,ゲーム中にルーンストーンを見つける必要がある。Shadowbaneでは,キャラクターに体力や知能などのパラーメータのほか,スピリットというアトリビュートがあるのも面白い。自然界との協調性のようなもので,高ければマナをより多く収集できるため,ヒーラー系のキャラクターには不可欠なアトリビュートとなるだろう。
 Shadowbaneにおけるキャラクターメイクは,一定のキャラクターポイントを振り分けていくことによって自分の好きなようにカスタマイズできるのだが,これを使って職業規律を設定する必要がある。 職業規律(Discipline)というのは,キャラクターの種族や職業に見合った"素性"のようなものであり,例えばナイト(騎士)という職業規律を選んだ場合,プレイヤーには「防御」などの特殊能力が加わることになる。これによって,プレイヤーが戦闘中に非力なほかのプレイヤーを保護しているような状況においては,敵の矢を一身に受けるようなことになり,身をもってほかのプレイヤーを守り抜くことができるのである。現在は30宗派ほど用意されており,アルケミスト(金錬術師)だとかラットキャッチャー(ネズミ捕獲者)など,一風変わったものも存在している。
 プレイヤー同士の戦闘については,皆が集うようなギルドホールの周囲にはセーフゾーンが設けられており,その領域外では基本的にはPvP(対プレイヤー戦)は奨励された形になっている。これは,自分の町は自分で守るというゲームのコンセプト上,至極当然のことだろう。しかし,ゲームサーバーやプレイヤーたちで運営されているギルドの周囲なら,最近行なわれた戦闘はイベントログとしてゲームに残ることになっており,問題を起こそうと狙っているプレイヤー以外なら,ほかのプレイヤーに安々と挑戦できないようだ。
 またShadowbaneには,“ボンディング”と呼ばれるシステムが用意されていて,各キャラクターはお気に入りのアイテムを3種類まで自分と結合するという儀式が行える。これを行っておけば,戦闘などで死んだ場合でも,キャラクターはそのアイテムを保有したままの状態になっているわけだ(ルートされない)。その他のアイテムは死体に残ったままの形になるので,自分のギルドのTree of Lifeで甦生した直後に取りに帰っても,戦利品としてすでに略奪されている可能性はあるだろう。ただShadowbaneでは,プレイヤーキャラクターが保持するアイテムがどうのこうのという以上に,選択したスキルやアトリビュートの成長具合によって効果的な戦闘が行えるようになっているため,ゲームシステムの一環として,楽しみながら"対人戦"をやるような状態になることに期待できる。

 Shadowbaneでは,一つのサーバーにつき1500人程度のプレイヤーがアクセスできるようになるという。Wolfpackが独自開発したArcane 3Dというゲームエンジンを使用しているが,これはオンライン専用ゲームであるということを考慮して設計されたプログラムで,相当な技術力を誇っているようだ。詳細については不明ではあるものの,キャラクターの位置や状況を一つの数値に換算してから情報を送受信するため,インターネットを介してたった数バイトでのやり取りが行なわれるだけだということを以前開発者から聞いている。そのデータをクライアントソフト側が瞬時に読み取って地形やオブジェクトをグラフィックス化させるため,通常の3Dゲームよりも随分と軽いゲームになるらしい。公式発表では,OpenGLベースのグラフィックカードとPentiumII/400MHz程度なら,アナログモデムでも十分にプレイできるとのことだ
 いまだ確実な発売日は発表されていないが,2002年夏頃からのサービス開始が見込まれている。ダークな世界ながら,ギルドを中心にしたプレイヤー同士の戦争が,どのように受け入れられるかは見物である。

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